全進研 秋のセミナー 2016  概要まとめ

                               まとめ・文責 中村(共同代表)

 

テーマ:夜間定時制高校のリアル/さらなる統廃合は許されない!

 

日時:2016.11.26   13:4516:45

場所:武蔵野市西部コミュニティセンター(中央線武蔵境駅徒歩15分)

 

司会:中村(共同代表)

「効率性」を求める動きが教育の世界に吹き荒れ、かつては100校あった夜間定時制高校はさらに4校(立川、小山台、江北、雪谷)が廃止・閉課程させられようとしています。今日は、夜間定時制高校とチャレンジスクールの現場の先生からの話をもとに皆さんとこの問題を深めていこうと思います。そして、今日は講談師の田辺凌鶴さんをお迎えし、「83歳の女子高校生球児」という一席をお願いしています。それではお迎えしましょう。

 

講談 『83歳の女子高校生球児』 田辺凌鶴さん

   夫の死をきっかけに、夜間中学、そして夜間定時制高校に進学した上中別府チエさん、79歳。そこからひょんなことから野球部に入部する。最後の年には、全国大会出場をかけた高校定時制通信制軟式野球の神奈川県予選の5回裏には、グローブを手にレフトを守る。決勝ではベンチから伝令としてマウンドに行き、孫よりも若いエースのお尻をポンとたたき、気合を入れた。球場は大歓声に包まれた……。

   当事者の上中別府さんにも取材もして、とても心温まる講談が展開されていきました。いろいろな事情を抱えながらも学び合い、共に生活ができる夜間定時制高校の大切さが伝わってくる内容で、感動と勇気をもらうことができました。

   講談後には、会場からの質問にも丁寧に答えていただきました。誠にありがとうございました。

 

報告

Iさん(都立定時制工業高校教員) ※レジュメ・資料を用意していただきました。

  ・ほとんどの生徒は中学卒業後すぐに入学してくる。したがって、30代以上はほとんどいない。学力差も大きい。外国につながる生徒も増えており、母国語しか使えない親と言葉が通じない

   子もいる。東京都の平均値より背も低く、太りすぎの子もいれば痩せすぎの子の割合も高く、「食」が十分に保障されないまま育ってきたと思われる。運動が苦手な子も多い。

  ・生徒の8割以上はアルバイトをし、仕事のために遅刻や欠席もする。都は、「かつてのような勤労青年は減少している」という理由で夜間定時制を廃止しようとしているが、非正規雇用者を勤労者に含めないのは実態と合っていない。生徒の住んでいるところや職場(アルバイト先)の近くに夜間定時制高校があることが大切なのだ。そして、4年間かけて(3年で卒業も可能だが)、じっくりゆっくり育っていくことが保障できる場としても夜間定時制高校は存在意義がある。

  ・都教委は来年度の募集定員で1212学級の削減を言っている。夜間定時制高校の2次募集を受ける生徒は①推薦、②1次募集、②2次募集、とすでに都立高校を3回落とされて来る子も多い。体力的にも精神的にも弱い生徒には耐えがたいプレッシャー。募集枠が小さくなり、入れそうにないかもと思えば、もう受検しない。希望を摘んでしまうことになる。

  ・今回廃止・閉課程に名が挙がった4校は、みな進学校で、部活動も活発な学校。しかも周辺に定時制高校が多いわけでもないことを考えると、その全日制の教育活動に邪魔になるからまずそこから潰そうとしている、としか思えない。

 

Sさん(都立チャレンジ高校教員) ※レジュメ・資料を用意していただきました。

 ・平成12年度の桐ヶ丘高校開校から4校(世田谷泉、大江戸、六本木、稔が丘)増えて現在は計5校、平成32年度には2校増えて計7校になる予定。今ある5校のチャレンジ校でも中身は微妙に異なっている。とはいえ、学校設定科目が減少傾向にあり、より普通科に近づき、進学重視の方向へ向かっているような危惧を感じる。

 ・当初は制服(標準服)がなかったが、今年度からは5校すべてが制服(標準服)化を実施した。チャレンジ校は本来、不登校になった子や学び直しをする子たちを救う場所だったはずなのに、なぜ制服化なのか。校内では、制服化しないと「ヤンチャな子」が入って来る、という声がある。

 ・都の方針でチャレンジスクールは2学期制だったが、ようやく今年度になって大江戸高校は3学期制を実施した。生徒にとって2学期制のリズムでは、たとえば長い夏休みの後に定期試験があるので気持ちが継続できず、気持ちの切り替えが難しい。

 ・生徒は3部制なのに、教員の勤務体制がA/B勤務制なので結局、教員はその部の教育活動全体に責任が持てない仕組みとなっている。教師が朝から夕方までと、昼から夜までの2交代制で勤務しているのでとにかく物理的に生徒たちと十分な関係を持てない。

 ・都の6年で異動を原則としているが、チャレンジスクールの在職年数はほぼ3~4年であり、仕事をこなしていくことで精いっぱいとなっている。経験豊富な先輩教員のようなロールモデルが少なく、教員同士が学び合いながら学校をつくることが困難な現状である。したがって管理職が出してきた問題がすぐに決定してしまう傾向がある。

 

討議・交流

 ・都は今回潰そうとしている4校分の人数分をチャレンジスクール三部制高校に負わせようとしている。

 ・そもそもチャレンジスクール(昼夜間定時制/総合学科)と夜間定時制高校とでは性格が異なる。

 ・3部制では生徒をしっかり面倒みる人的配置を保障していない。

 ・教員はA/B勤務制、生徒は3部制、という矛盾は開校当時から問題視されてきた。しかし都は、3部制の方が経済的だからか、絶対に2部制を認めない。

 ・3部制に無理があることから、結局は「普通」の普通科に近づいていく。生徒も保護者もこれまで、自分たちの意見は受け入れられてこなかったことが多いので、そもそも不満も出ない。

 ・チャレンジスクールでは制服化をしたので、30歳の生徒も制服(標準服)で来ている。学びたいと思った時にチャレンジスクールで学び直したいのに、その時に制服(標準服)がある、ということは本当にどういう意味があるのか。

 ・夜間定時制高校では給食があり、これまで多くの学校で1校時後の7時ころに給食時間を設けていたが、今は1校時前の5時ころに給食を出している。学校の管理下の時間帯に外出した生徒が学校外でトラブルを起こし責任を追及される可能性を避けるため始業時前の給食にしていることもあるのではないか。

 

まとめ 綿貫(共同代表)

 ・今回の新たな夜間定時制4校の廃止は、誰が、どこで、どんな議論を経て決まったのか。当事者や関係者の意見が集約されていない、まさに「豊洲問題」と同じ。「学びのセーフティネット」定時制高校の今日的役割を見直したい。

  ・都は、1027日に「東京都教育政策大綱骨子(案)」を策定し現在都民からの意見募集(パブコメ)を行っている。そこには、「夜間定時制高校の充実」の文言はない。詳細は東京都のHPに掲載されているので、ぜひ多くの声を集中させたい。1130日(水)が締め切りです。

 

  ・本日は、ありがとうございました。

感想

 

借りる時間をオーバーしているお知らせを会館の方からいただいて、バタバタと片づけをしている中で、3人の方が感想を寄せてくださいました。中でも、お二人目に載せた方は、あとから感想をさらに書いてくださったので、ここに載せました。ありがとうございました。(全国進路指導会世話人)

 

Aさん

講談も、その後の先生方のお話も本当に良かったと思いました。

それは何よりも、生徒たち一人一人を人間として、大切に思っていることがよくわかったからではないかと思います。ワクから外れてしまったような子たちを大切にしていかなければいけないのに、最近の学校は本当に忙しく、忙しく……自分のワク内を守っていくことで精一杯になってしまっています。今日は参加してよかったと思いました。ありがとうございました。

 

Bさん

お二人の話とてもよかった!生徒さんの話、とてもよかった。

田辺さんの講談、語りの力、強く感じました。

田辺凌鶴さんの講談「83歳の女子高校生球児」の語りに思わず感動の涙が出ました。

そして、都立夜間定時制の先生と、東京都が今回4校夜間定時制廃止後の受け皿と言っている「チャレンジスクール」の先生のお話しが、実に良かったです。

 

夜間定時制には、そこにぜひ入学したいと希望して、というより、昼の高校受験を何度も失敗するとか、内申や当日の試験で点数が取れる見込みが全くなかったりして、ここしか行き場所がなくて、来る生徒が殆どで、

一見すると頑張っているとか、なかなか良くやっているとは全然思えない。

しかし、じつに健気に生きている生徒たちなのだ、と先生は語りました。

 

夜間定時制高校の生徒たちをこのような眼差しで見て、生徒さんたちを尊敬に値する存在であると語る先生の言葉に心動かされました。いい先生だなあ、生徒たちはきっとその先生の眼差しに励まされているに違いない、と思いました。

 

かれらはブラックと言われるようなバイトをしていて、会社や店の上司に、「人手が足りないから出て」と言われると、試験だからとか、学校があるからとか言い返すことができない、人間関係が下手で弱い子が多い。

彼らのバイト代を生活費としてあてにしている家庭もかなりあって、「勤労学生がほどんといないから」という都の定時制廃止の理由は全くおかしい。(都の言う勤労学生とは、正規雇用、または自営業!!)

そして、いわゆる不登校だった生徒の受け入れを目指して作られているチャレンジスクールの先生がお話ししました。

東京都は、夜間定時制を廃止した分は、チャレンジスクールや三部制があるから大丈夫と言っていますが、

実態からは全くそれが間違っているということがよく分かりました。

先生たちが、生徒さんと触れ合う時間がないというのにはびっくりです。

不登校経験者だからこそ、丁寧にクラスメートや先生との関係をゆっくりと紡いでいく必要があるのではないでしょうか。

 

また、チャレンジスクールの最近傾向として、「やんちゃ」・・非行の生徒を排除するような雰囲気もあるそうで、そのためにか、制服、標準服をすべての学校で導入するようになってしまったそうです。

中学校で苦しんで来た服装などの管理で、高校に入ってまでも「ワル」の選別をされるのかなー、と悲しくなりました。

チャレンジスクールと夜間定時制とでは そもそも全く想定されている生徒さんや教育が違うので、数合わせだけで代替できる、というのは本当におかしいと思いました。

以上が本日の感想です。

 

Cさん

 

定時制の話題に触れたことがなかったので、大変勉強になりました。