2016冬のセミナー 成功裏に終了しました

集会のまとめ・文責 遠藤 裕子(共同代表)

 

テーマ:「中教審」が現場に求める教育と私たちがめざす教育

 

日時:2016.2.13   14:0016:30

場所:武蔵野プレイス(中央線武蔵境駅すぐ)

 

司会:中村(共同代表)

2012年より、運営の形を変え、年4回、セミナーという形で学習会を継続するようになった。今回は「2016冬」大変重要なテーマ。今泉さんの報告を基に、会場の皆さんと深めていきたいと思う。

 

開会の挨拶:綿貫(共同代表)

 1週間ほど前の朝日新聞での質問、「30年後の日本は明るいか?」。教員へのアンケートでは3割が「明るい」と回答。その3割は若い層が多い。「教育委員会が決めてくれた方がいい」と答える。以前は、中教審の答申などが出ると自主的に学習をしていたが、現場での議論は多忙な現状などがあって困難。しかし、今、「今回のような学習会」が必要だと強く思う。

 東京では、夜間定時制廃止が進んでいる。パブコメでは反対がたくさんあったのに、廃止が決定していく。高校では「人間と社会」というテキストが使われるようになる。議論なしに通った。中身は道徳+キャリア教育。「議論なし」というのが恐ろしい。現場での議論がないままに、いろいろなことが決められていくのは危険。今日は、今泉さんの報告を基に大いに議論する機会にしたい。

 

報告

今泉(全進研世話人) 前・北海道教育大釧路校副学長 元・都内小学校教員

※レジュメ・資料がアップされているので、要点のみの記述とします。

レジュメ:「中教審」が現場に求める教育と私たちがめざす教育 

資料1:中教審教育課程企画特別部会「論点整理」からの抜粋

資料2:ほぼ私がお話した内容

 ⇒ レジュメ、資料等は、こちらからダウンロードできます。

 

【1】「論点整理」を読んでみて

 今回の報告を読んで、驚愕してしまった。指導法にまで国家が介入するというのが非常に大きな問題。現場の状況(教育困難、教員の願い)やこれまでの指導要領の反省は全くなされていない。「社会の厳しさ」が強調されていることに疑問。「知識基盤社会」と言っている、果たしてそうなのか? ドクターを出ても就職すら決まらない。現場の状況と乖離していて、これを読んで元気の出る人はいないだろう。

 現場の教員はゆったりとした関係の中で実践ができることを願っている。

『てん』(ピーター・レイノルズ・著 谷川俊太郎・訳 あすなろ書房)を紹介。現場の教員はこのように「子どもとゆったりと関わることのできる実践」ができることを願っている。今回の「論点整理」を読んでも、現場の忙しさは解決されていく展望はもてない。ますます忙しくなるだろう。」

 

【2】「自ら」を一貫して強調 「自己責任」の押しつけ

「個人ではどうにもならない社会の状況があること」には一切ふれていない。

 

【3】学習指導要領をこれまで以上に現場に徹底する

授業ごとの学習案の作成まで要求。授業は子どもとのやり取りの中で変化するもの。そんなものを作成するならば、事務作業が増え、現場はますます忙しくなる。

 

【4】アクティブラーニング

これまでも、「能動的な学習活動」を取り入れてきた。教師の専門性が保障されるような状況下であれば、指導法のひとつとして積極的な意味をもつ。「アクティブラーニング的な教育方法」は教材や指導法の自由が保障されてこそ、効果のあるもの。今回の「論点整理」では、表面的な「活動」や「形式」に流れる可能性があると読み取れる。

 

【5】《新しい能力》の育成

「グローバルな知識経済の下での労働力の要請に対応する」という姿勢が読み取れる。マクレランド(McClellandがコンピテンシー・アプローチという考え方に基づいてテストとして開発。「学力だけの測り方」では対応できないと考えたのだろう。

 

【6】基礎・基本と活用について

「論点整理」では、練習・習熟が強調されているが、基礎・基本を、どれだけ深く豊かに学ぶかが大事にされなくてはならない。それこそが生き生きとした授業の創造につながると考える。

 

【7】道徳の「教科化」

教科化されることの意味を考える必要がある。「徳目」の提示と「評価」とが行動評価として結合される時、子どもたちは「建前」を演じることになる可能性がある。(書籍紹介があった)「新しい道徳」(北野 武著)を読んでみるといいと思う。

 

【8】実践を創っていく上で

「役に立ちそうな記述」もある。批判的に読み取るだけでなく、そこを逆手にとって、実践を創造することを考えていきたい。

 

【9】最後に

 まずは「論点整理」について話し合う機会をつくることが大切。子どもの実態や指導上の課題や困難を出し合って話し合うこと。

 学校教育が政治的な道具にされてはいけない。子どもの苦しみや悲しみを受け止め、子どもたちが安心して学び生活できる場にしていくことである。子どもたちの輝きを父母と共有する努力をする。父母との連携をつくる努力をすること。まず自分が考える。自分と同じような問題意識の仲間が2〜3人できれば、職場や学校は大きく変わる。ものごとは、わずかひとつの微視的な点から始まる。

 

質疑

Aさん(大学非常勤教師・元高校教員):

「特別」というのをどこまで考えたらいいのか。

PISAOECDの調査を意識しているのではないか。

「なぜ、アクティブラーニングなのか」

 

 

Bさん:

今泉さんの実践と今出されているアクティブラーニングの違い

 

今泉:

・「特別」というのは「実施状況を調査する」と言っていること。

「新しい経済状況の中で活動できる人材」を意識している。心の有り様まで管理するような姿勢がある。

・(私が行ってきたアクティブラーニングとは)「深く物事を学べる視点」のある・なしが違う。

 

Cさん:

能力・適性・素質に変わったということに、教育の変容がみてとれるのではないか。

 

今泉:

態度主義と関わっている。「学力」だけではダメということを強調している。

 

Cさん:

コンピテンシーという言葉の登場。

総務省、文科省も、「主権者教育」と言っている。憲法を変えようとしていることと矛盾している。「安倍政権の政策」の批判だけでは、解釈しきれないのではないか。

 

交流

司会:今回の「論点整理」が学習指導要領に反映され、現場に降ろされていくであろう。自分の見方をもっていなければ、忙しさの中で流されていく可能性があるだろう。現場の状況も出しながら交流したい。

 

Dさん(都内・私立中・高一貫校):

2月初めに中学入試があったが、経営サイドは「生徒を確保できるかどうか」心配している。小6の子どもたちに過酷な状況がある。私学には、厳しい状況があり、そこまでして、何か「教育的な効果」が期待できるのかと疑問をもつ。「教育は地域と結びついてこそ」ということがあると思う。ベネッセの調査で「学習時間が増えている」とあるが、うちではメチャクチャ宿題を出す。そんなことで「学力」がついていると言えるのか。「圧力」もあり、たくさんの矛盾がある。

(質問に答えて)コンサルタント会社を採用。数値目標などが導入された。

 

Eさん(都内・私学・高校)

私学は生徒確保が課題。ベネッセの問題を議論しないまま、自分たちで導入した。うちは上からではないが、ベネッセのテストに合わせて、教育内容を考えたりすることになる。

「民主的な学校」と言われてきたが、組合の運動として継承できていない側面がある。このような状況の中、「論点整理」を読み解く力はないのではないかと考える。「いいことが書いてある」という方向になるのではないかと思う。

 

Fさん(公立中学)

「降りてきたもの」は無批判に受け入れる傾向がある。話は「降りてきたもの」をどう現実化するかという方向になる。

 

Gさん(公立小学校)

「上から降りてきたもの」は何とかしていこうという流れになる。(公立だが)5割は私立中学に行く。職場の議論は「受け止めて、何とかしよう」となる。批判的な捉え方にはならない。

 

Hさん(大学非常勤講師 元・公立高校教員)

「降りてきたもの」を実践するのが無理という実態がある。

例えば、奉仕とか、生徒指導とか。

学力の問題が出されたが、大学生に聞くと「いい学校に行く」ということをめぐって自己肯定感が崩れたという。

 

Iさん(元・公立中学)

現場が忙しすぎて、降ろしても、実行不可能ということもある。

「要点整理」では「仲間と、グループで」ということが強調されている。企業論理でいくと一人ひとりを大切にするというよりも、効率を考えてのこと。

道徳では情動が強調されているが、これは悪いことばかりでなく、「褒めること」で自己肯定感が高まるということもある。

アクティブラーニングも、今泉さんが話されていたような文脈で積極的に

使われていくのがいいと思う。そこに「価値形成」も含める。ひとつの問題意識をもった事柄を考えていく。共同体的な視点をもった活動に転換していく。

 

Eさん(都内・私学・高校)

現場は受験産業、テスト採点などに振り回され、時間がなく、疲れきって思考が停止している状態。私学に学習指導要領がひとり1冊配られたことがあった。最近ではICT関連。18歳選挙権に対応して、テキストが配られたが、読む余裕もないし、考える余裕もない。

 

Jさん(公立・中学)

今年の研修はアクティブラーニング。よくわからない。質問するも、講師もよくわかっていない。

 

Dさん(都内・私立中・高一貫校)

私学もアクティブラーニングの研修が多い。よくわからずに使うと、子どもたちも混乱するのではないか。「本質」を大事にした授業には、子どもたちは食いつく。子どもたちの思いや発達・成長を保障していく観点を大切にしていくことではないか。

 

Aさん

アクティブラーニング、ディープアクティブラーニングも、これまで実践してきたものと違っている。異質なものになる。共同的な学びが入っても異質なものになる。自己肯定感が失われている。「今の学び」の中で、傷つけられている。

学習はもともとアクティブなもの。

労働が変容している。単純労働は非正規に任せる。上層部はブルジョワ化する方向で、教育が組み込まれている。

「子どもが学ぶ意味」は、つまり「自分のマネージャー」になるということ。自分の人生をマネージメントしていく力をつけることにある。

 

今泉:まとめ

人間の頭脳はひとつ。これからの社会に「予測つかないとか不安がある」とかいうが、人権や民主主義の視点を持たなければ、将来・未来への展望はない。

 

 

閉会の挨拶:草刈(全進研世話人)

たくさんの参加があって、有意義な学習会になったと思っている。これからも世話人のひとりとして、活動を支えていきたい。

 

 

参加された方の感想

1■論点整理の問題点について理解を深められ、大変勉強になりました。理論的に相対化できる機会を今後もつくっていただけると嬉しいです。

 問題点の中で「自己責任」の押しつけが指摘されていましたが、現場での子どもの貧困への対応の仕方についての議論の機会も作っていただけると有難いです。

2■途中、寝てしまいました。申訳ありません。何を中教審が求めているのかだけは理解しました。

3■若い頃から一度聞いてみたいと思っていた今泉先生のお話を生で聞くことが出来て良かったです。後半は、あまり深まらなかったですね。今泉先生のお話への内容に限定して交流すべきかなと思いました。

4■今泉さんのお話する「基礎•基本的なことを深く学んでいく」ということが、個人的に、現場への大きなヒントになると感じました。

 私がおります学校では「協同的な学び」を深めていくため、委員会が有志で活動しています。教員が授業をみる力をつけようと発信をしていますが、実際は、協同的学び=グループ学習、又は協同的学び=アクティブラーニングと、言葉が一人歩きし深めきれていません。私も、どちらかというと形で動いてしまいがちですが、本日の講演を通して、まずは「基礎」を深めていくことを大切にしなくてはと感じました。(A.S

5■今泉先生の授業のお話を久し振りに聞けて良かったです。基本的なことを深く考えさせていく取り組みをつくることに接することがあれば、表面的なアクティブラーニングだけに流されずに、自分たちの取り組みを見直す教員は、それなりに出てくるように思います。

6■ありがとうございました。学習になりました。現場の忙しさは大変なものです。どうしたら子どもの意欲のわく授業をつくっていけるのか、考えたいです。(M.A

7■多忙化の職場に「トップダウン」で教育政策が押しつけられている状況がよくわかりました。親の方も目先の進学•受験に迫られて競争の教育に追いまくられているが、それが本当の姿かと疑問に思っている。子どもたちの学校参加の視点から、学校づくりの取り組みの中で「アクティブラーニング」の実践を結びつけて考える。そんな実践もいいのでは?(K.K

8■多岐に渡る内容で少々未消化です。何が論点の中心にすえるべき点だったのか?議論を深めたかったです。ただ、私自身も持ち帰って、色々な人と話すべき内容が見つけられたので、他でも拡げていきたいです。道徳、総合と学力、については、今後取り上げて欲しいです。ありがとうございました。(M.Y

9■「夜間中学の拡充」という政府の方針転換が、どこから来ているのか知りたいと思って参加しました。大きな流れを今日は少しつかめたような気がします。これから自分で考えます。(S.R

10■小•中•高の「現場」の様々な実状を知ることが出来て勉強になりました。就中「ベネッセ」という言葉が、何度も出されたことに驚きを感じると同時に「深刻」に受けとめるべきだと、今さらのように思いました。(「不明」を恥じる他ないということです。)(Y.T

11■今泉さんの教育実践に裏打ちされたお話は圧巻でした。特にアクティブラーニングの部分での言及、バットまわし対決、てこ実験機、バール…具体的な事実をとらえたときに子どもたちに身につく力。現実をリアルにとらえさせること、事実にもとづいて深く学べるのかどうか、

私たちがめざす教育実践と「中教審」のいうアクティブラーニングとの根本的に異なること

 今泉さんの豊かでみずみずしい教育実践に圧倒され感動し共感した一日でした。スペースCの教室の扉を開けて、ぎっしり埋め尽くされた教室に、喜びがこみあげてきました。

もう少し時間に余裕があれば、本山さんからの鋭い問題提起を、さらに深めることができたのにとも思いました。

 

 あらためて全進研の素晴らしさ、そして現在の情勢のなかで、全進研の果たす役割が明確になった「冬のセミナー」でした。(S.H